新主題による研究展開と実践に向けて


『 創造的学校事務を求めて 』




1 は じ め に

「創造的学校事務を求めて」は、今後の学校事務研究の柱として検討が重ねられた結果、1999(H11)年3月開催の定例理事会で「新研究主題」に決定されたものです。会員の皆さんへは同年10月、高梁市で開催された第24回大会における部会長挨拶のなかでも紹介されたところです。

  新しい研究主題への移行にあたっては、過去の研究実践に対する評価や到達点、今後に向けた課題の検証などを皆さんとともに行い、共通理解を図る必要があります。また、今後の各地域での研究にあたっては、新主題の方向を踏まえた計画と実践を進めていただく必要もあります。

 
旧主題は何分にも長期間にわたって掲げられたもので、限られた時間のなかでこの間の研究過程・成果・問題点等を、詳細・厳密に検証し評価することは極めて困難な問題です。今大会にあたり、企画部報告の形で「旧主題から新主題への経過」を簡単に整理し、不十分さは否めませんが、改めて会員のみなさまに提案させていただくこととしました。


2 旧主題 『学校経営における学校事務の基本的考え方』

岡山県下の公立義務教育諸学校への事務職員配置は、1958(S33)年2月の選考採用20名、次いで同年4月の66名の採用からスタートしました。1961(S36)年1月には事務職員の全県協議会が組織され、同年11月の「公立小中学校事務職員協議会第1回研究大会(於岡山市)」を皮切りに、翌年には玉野市で第2回、次いで第3回大会が真庭郡湯原町で開催されています。

 
今日の小教研・中教研は、当時存在した多種多様な学校教育にかかわる研究・研修グループ・団体を、県下単一の組織に整理・統合する目的で1964(S39)年に立ち上げられました。これにともない「事務職員協議会」も組織を解消し、小・中学校教育研究会の「学校事務部会」として再出発をしました。同年11月、学校事務部会として初回の研究大会が岡山市で開催されていますが、このとき大会主題として掲げられたものが「学校経営における学校事務の基本的な考え方」であり、以後1999年の第24回大会まで実に35年間、変わることなく掲げられることとなります。

 
この主題を考えるとき、公立小中学校における事務職員制度「草創期」の方々の思いを感じないわけにはいかないでしょう。任命権者・市町村教育委員会はもとより、受け入れた学校も事務職員自身もまた「学校事務とは、事務職員とは何か」、まずそこからの出発だったと言われます。「学校経営」という言葉には、今日なお「学校長個人の仕事」的イメージが残りますが、学校経営と学校事務を実質的に並列して示したこの主題は、当時としては驚くほど斬新な響きを持ったものでもあったことでしょう。先輩がたの「岡山県の学校事務を創造するのはわれわれだ」という強烈な気概と自負を、今日のわたしたちも想起できるのではないでしょうか。


3 この間の学校事務を取り巻く環境の推移

草創期から今日までの足跡を、学校・社会を取り巻く環境の推移と学校事務を繋げつつ、簡潔でしかも的確に論じきることは極めて困難です。このため本報告は、比較的身近な「事務職員定数」の切り口から概括してみます。

 
信頼できる資料によれば、1959(S33)年配置率12%規模でスタートした事務職員総数は、1970年代から高度成長期による国・自治体財源の飛躍的伸張を受けて、定数改善に大きく作用します。1975(S50)年385名(60%)から5年間で554名(87%)へ、大規模校の複数配置が実現するとともに、未配置校への事務職員の急速な進出が始まり、悲願であった「全校配置」も展望されるようになります。

 
一方、1970年代初頭に行われた県の給与事務電算化は、学校事務の大きな比重を占めていた集約的な「手計算主体」の給与事務を激変させ、職務内容の転換と再構築を迫る大きな要素となりました。また、1996(H8)年には給与の口座振替制度の導入があり、その後給与・旅費のパソコンによる情報処理が急激に広がります。また、予算の執行・管理を中心とした事務も、市町村の財務会計システムの導入とともに急変、支配的であった草創期の「読み・書き・そろばん」的事務観は、ツール・マインド両面とも大きく転換してきました。

 
しかしながら、バブル経済の崩壊・国と地方の財政再建・構造不況の長期化といった後退局面が現われ、1980年代に至り事務職員給与費の「国庫負担制度の見直し」問題が浮上、さらには従来型の学級数を基礎にした一律的定数改善プランが機能を停止します。この結果、事務職員総数は1994(H6)年の633名をピークに頭打ちとなり、以後「少子化」のなかで定数は減少しつつあります。


4 旧主題による研究の成果と課題

旧主題による研究・実践の成果は、任命権者による「事務研究員制度」の発足とも相まって、1970年代末から80年代初めに開花のラッシュを迎えます。
 ○標準的な事務職員の職務の問題 ○学校文書分類と取扱い要領の問題 ○学校予算と物品の出納管理の問題 ○事務職員の職位・補職名の問題など、幾つかの主要なポイントで精力的に実践がまとめられ、研究成果の定着化が図られとともに、関係機関等への働きかけもなされました。 

 職務確立の問題では、詳細にわたる「標準的な職務内容」表が考えられ、任命権者への要請が行われましたが、包括的「職務表」は実現を見ませんでした。しかし、事務職員に対する職指定の問題では、一部に制限が設けられたものの給与資金前渡や旅費受領「代理」指定の実現を見ました。

 
文書事務の問題については、任命権者による「文書取扱い要領」の採用を進めたものの、全県一律的な実現は困難でした。これは、学校の文書管理に権限を有する個別市町村教育委員会との接点を欠いたことに主な原因があり、地域的に取り組みが進んだ一部自治体では具体化が図られたところもあります。とりわけ、近年の情報公開をめぐる自治体の動きのなかでは、「学校文書分類と取扱い要領」のモデルとして地域研修に再活用されたことも、一定の成果を上げたと言えるでしょう。

 
また、学校における「市町村財務」は、地域的バラツキが大きい領域であり、自治体によっては管理職担当が長らく続き、一部には草創期以来事務職員がノータッチの町村も存在していました。しかし、今日では市町村予算の執行や物品出納事務は、事務職員の職務として着実な定着を見ており、未だ少数ではあるものの「学校財務取扱い要領」による担当規定や、事務職員に対する「物品出納員」の指定など、職指定による職務確立が進んだ自治体もあります。


5 学校改革と求められる学校事務の機能

学校事務が「学校経営とその管理運営」必須の事務であり、事務職員はその中核として機能すべきことを、旧主題の実践と検証を通して明らかにしてきました。「基本的な考え方」を確かめた35年間の研究を継承しながら、引き続き学校事務の中心スタッフとして新時代に対応できる事務職員の役割りは何かを、引き続き解明していく必要があります。

 
ご存知のとおり、学校は大きな改革の転換点に立っています。教育の地方分権をキー・ワードとした1998(H10)年中教審答申以来、2002(H14)年スタートに向かって従来の公教育・学校のあり方について、発想の転換が強く求められています。とりわけ、学校評議員制度の導入や説明責任の問題など、地域社会との連携・関係の再構築が主張されてきました。このなかで、わたしたちはどのような機能を担うことができるか。

 
また、予算執行権を含めた学校(長)権限の拡大の方向では、学校の自主決定権や自律性確保の担保として、新しい学校経営や運営と整合性を持った事務管理システムの構築が強く求められています。特に財政面からは、わたしたちは公費予算と学校に存在する各種会計との整合性・透明性、適正な執行体制の問題にどう対応できるか。

 
学校施設の問題では、ハードな教育単一目的型からよりソフトな複合型施設へと移行しつつあります。福祉や生涯学習など地域コミュニティの拠点として利用が拡大するなかで、学校施設の管理事務との接点をどこに求めていくべきか、わたしたちの「実践力」が問われています。


6 新主題による今後の研究の方向と展望

短期テーマとして掲げている「学校事務を見つめ直そう」にも、ご留意をお願いします。これからの学校と地教委の関係は、市町村ごとに多様なバリエーションが生まれてきます。新しい学校機能の具体的な展開は、地域ごとにみなさんが市町村サイドの動向を把握し、きちんと対応していくことが重要になってきます。 学校の新たな機能は必然的に学校独自対応の業務を増大させ、事務職員がこういった業務を積極的に担っていく場合には、校内事務システムのスクラップ・アンド・ビルドも当然必要となるものと考えられます。

 さらには、旧主題の取り組みのなかで積み残した二つの大きな課題、「学校文書管理」のシステム化と「学校財務管理」システム化の問題も、今日的あるいは今後の学校事務管理にとって、欠くことのできない重要な問題です。他地域の研究にも学びながら、引き続きその定着化に向けた努力が必要とされています。

新主題 『創造的学校事務を求めて』は、決して「こうなったらいいなあ」という夢や、レポートの創作を求めるものではありません。創・造いずれも「つくる」です。わたしたちは研究と実践を通して、それぞれの学校のなかに「事務機能を形成する」ことであって、そのための創意・工夫ある具体的な取り組みと展開を、会員のみなさんとともに進めようとするものです。

これからの学校事務の確立と事務職員機能の拡充にとって、効果があるのは何か、より妥当で、より実現可能なものは何か。それぞれの学校で、それぞれの地域で、これらを探り当てるための具体的な実践が求められています。

                          ( 2001.10.30 /第25回県大会 )